札幌地方裁判所 平成元年(わ)1174号 判決 1990年4月19日
本店の所在地
札幌市西区八軒五条東五丁目四番七号
法人の名称
丸本本間水産株式会社
代表者の住居
札幌市中央区宮の森三条八丁目二番三号
代表者の氏名
本間裕士
本籍
札幌市西区二十四軒八六番地
住居
札幌市中央区宮の森三条八丁目二番三号
会社役員
本間裕士
大正一三年八月三日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官西浦久子出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人丸本本間水産株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人本間裕士を懲役二年に処する。
被告人本間裕士に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人丸本本間水産株式会社は、札幌市西区八軒五条東五丁目四番七号に本店を置き、水産物仲買業・製造加工販売業を目的とする資本金二、〇〇〇万円の会社(昭和六〇年六月一日の組織変更前は、丸本本間裕士水産有限会社、資本金一、〇〇〇万円)であり、被告人本間裕士は、同会社代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人本間裕士において、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、棚卸除外、売上除外及び仕入繰上計上などの不正な方法により所得を秘匿した上
第一 昭和五九年二月一日から昭和六〇年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億九、三九四万四、八七二円であり、これに対する法人税額が八、一八七万三、七〇〇円であるにもかかわらず、昭和六〇年三月二九日、札幌市中央区北七条西二五丁目所在の所轄札幌西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三、三七七万四、一七七円であり、これに対する法人税額が一、二五四万三、五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年四月一日を徒過させ、もつて、不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税との差額六、九三三万二〇〇円を免れ
第二 昭和六〇年二月一日から昭和六一年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が三億三九四万八、九一七円であり、これに対する法人税額が一億二、九三〇万五、二〇〇円であるにもかかわらず、昭和六一年三月三一日、前記札幌西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億二、五六一万六、〇〇三円であり、これに対する法人税額が五、二一〇万二、四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年三月三一日を徒過させ、もつて、不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税との差額七、七二〇万二、八〇〇円を免れ
第三 昭和六一年二月一日から昭和六二年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二億五、五六八万一、五三八円であり、これに対する法人税額が一億七六四万二、五〇〇円であるにもかかわらず、昭和六二年三月三一日、前記札幌西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億一、三九三万六九八円であり、これに対する法人税額が四、六二八万円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年三月三一日を徒過させ、もつて、不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税との差額六、一三六万二、五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 本間久子、中松重夫及び浜村育夫の検察官に対する各供述調書
一 札幌法務局登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本
一 大蔵事務官作成の「売上高調査書」「期首たな卸高調査書」「商品仕入高調査書」「期末たな卸高調査書」「接待交際費調査書」「交際費等の損金不算入額調査書」及び「事業税認定損調査書」と題する各書面
一 札幌西税務署長作成の「青色申告の承認の取消通知書」と題する書面(謄本)
一 押収してある法人税決議書綴一冊(平成二年押第四四号の1)
(法令の適用)
被告人本間裕士の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑を猶予することとする。また、被告人本間裕士の判示各所為は、同被告人が被告会社の代表者として被告会社の業務に関しなされたものであるから、被告会社に対しては法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が科せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上の各罪は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金の合算額の範囲内で、被告会社を罰金四〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、水産物製造加工販売業等を目的とする株式会社である被告会社の代表取締役である被告人本間裕士が、被告会社の業務に関して「味付け数の子醤油味」を開発して販売し、その売上が爆発的に伸びたことから、将来の原卵の相場変動や供給不安に備えると共に現在の業績を維持し、経営を安定化するため、法人税を免れ、その分を簿外の在庫として確保する目的のため、判示の方法により、三期分合計一億四一七五万八四〇円の所得を除外した青色申告をなし、合計二億七八九万五五〇〇円もの所得税をほ脱したという事案であるが、ほ脱額は右のとおり非常な高額であり、ほ脱率も平均六七・一三パーセントにも達するものであり、その犯行態様も、被告人本間が中心となり、棚卸除外、売上除外、仕入繰上計上を併用するといった悪質なものである。また、本件犯行の動機をみてみても、被告会社の経営安定化を図ろうとするものであつて、結局は、誠実な納税者の犠牲において被告会社の利益を拡大しようとすることに帰し、社会的にみて容認されるものではなく、以上の諸事情を踏まえると、被告人及び被告会社の刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら反面、被告会社は、本件ほ脱の結果について、修正申告のうえ本税、重加算税、延滞税及び地方税の全額を納付していること、本件の税務調査が開始されたのち、新規に税理士を採用し直すなどして積極的にこれに協力するとともに、被告人本間裕士は捜査及び公判を通じて一貫して犯行を自白し改悛の情を示し、さらに被告会社の経理部門の人員強化等をして今後の適正な納税に務めようとしていること、被告人本間裕士に前科前歴はないことなど、被告人らのために斟酌すべき有利な情状が認められ、その他被告人本間裕士の年齢、健康状態、経歴等の諸事情をも併せ考慮すると、主文のとおり量定するのが相当と思料する次第である。
(求刑 被告人丸本本間水産につき罰金六〇〇〇万円 被告人本間裕士につき懲役二年)
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 山崎学)